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キュヒョンは絶句した。
玄関とくぐるとすぐに、強くて癖のあるアルコールの匂いが鼻につく。

不思議に思ってリビングを覗くと、予想通り、ぐったりと机に突っ伏すソンミンがいた。

キュヒョンはヒョクチェを背負って、ソンミンを揺すった。

「ミニ、こんなところで寝たら風邪ひくって。」

「ん…」


ソンミンはもぞもぞと動いて、眩しそうに目を開けた。
真っ赤に充血した目と同じように、いつもは白い肌が真っ赤に染まっている。


「はれ…?きゅひょら…?」

ソンミンは手探りでキュヒョンの服を掴む。
上手く呂律が回らないだけでなく、握力だって相当弱っていた。

いったいどれだけ飲んだのかだって、想像できない。
ワインのボトルは丸々二本空になっているが、実際のところ、それだけではないはずだ。


「んん…なんれきゅひょら…?はれぇ?ひょくちぇ?」


ソンミンは潤んだ瞳でキュヒョンを見上げる。
キュヒョンの背中ですやすやと眠るヒョクチェを見つけると、ソンミンは不機嫌な顔をした。


「やっはり…きゅひょらはそういうことなんらね」

「はあ?」

「きゅひょらがそのきなら、ぼくらってやるんらから」


キュヒョンが首を傾げると、ソンミンはポケットから携帯を取り出した。
酔いつぶれているのが嘘のように素早く通話ボタンを押す。
キュヒョンが唖然とそれを見ていると、ソンミンは勝ち誇ったように笑った。


「こうかいしても、しららいから」


ますます意味が分からない。
酔った勢いで意味不明な行動をとったことならあるが、ここまで狂ってしまったことはなかった。

これじゃヒョクチェヒョンとおんなじ。
所謂、ただの酔っ払い。


呆れるキュヒョンとは裏腹に、ソンミンはワクワクしながら呼び出し音を聞いている。
プツリと呼び出し音が切れると、すごい勢いで喋りだした。


「あ!ろんへ!!はのね、おねらいがあるんらけろ…」


ソンミンは、電話中、頻りに嬉しそうに頷いていた。
キュヒョンはそれを、面白くなさそうに見つめる。


―せっかく帰ってきたやったのに。帰ったらすぐに、抱きしめるはずだったのに。



なかなか終わらない長電話。
キュヒョンの苛立ちは大きくなっていく。
そんなことはつゆ知らず、ソンミンは愛らしい声で会話を続けている。

キュヒョンのことなんか、見向きもせずに。



―ムカつく。




キュヒョンは勢いよくソンミンの手から携帯を取り上げる。
あっさりと携帯はキュヒョンの手の中に収まった。


「むららよ、きゅひょら」


ソンミンは楽しそうに笑って、キュヒョンを見つめた。


「ぼくはもう、ろんへのこいびとらんらから」



キュヒョンは耳元に携帯を近づける。
流れ込んできたのは、心配そうにソンミンの名前を呼ぶドンへの声だった。


「きゅひょらだって、ひょくちぇがいるもんね」


いつもは絶対見せないニヒルな笑みを、ソンミンは浮かべた。
いつの間にか無意識に、キュヒョンは終話ボタンを押してしまっていた。



ミニって結構、バカかもしれない。


この俺を、怒らせたんだから。




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