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ぼやぼやとする視界の中で、キュヒョンは掛け時計を捕える。
しばらくは時計を見つめていたものの、我に返った途端、キュヒョンは飛び跳ねた。


時計の針は、二本とも真上を指していた。



「嘘だろ…」


そうだ。
朝目が覚めたものの、ミニが出かけたから、つまんなくて二度寝して…
まさか、昼まで寝てしまうなんて。
しかも自分は、何も身に着けていない。
この状況で誰も部屋に入ってこなかったことを、キュヒョンはありがたく思うしかなかった。


キュヒョンは、床に散らばった服を拾い上げる。
ひんやりとする服に腕を通すと、ベットの上に転がっている携帯電話が揺れた。


「もしもし?」

「あ、キュヒョナ?僕だけど。」


キュヒョンは分かりやすく不機嫌な顔をする。
表情なんて見えていないのだから、無意味だなんて、分かっていたのに。


「ミニ?どうかした?」

「それがさ、ヒョクチェが店で酔いつぶれちゃって…暴れっちゃってるんだけど、今からこれない?」



これない、と言うよりも先に、深いため息が漏れた。
そのため息に気づいたのか、キュヒョンの耳に、焦ったような気配が伝わる。
それでいい。俺のことで、もっともっと、困ればいいんだ。


「あの…無理だったら、いいんだ。別の人に頼むから…」

「いい。場所どこ?今から行くから。」


ソンミンがおずおずと店の名前を告げると、キュヒョンはブツリと電話を切った。
少しでも、不機嫌さが伝わるように。
なんて、時々、自分の子供っぽさに嫌気がさす。
それでも今は、余裕なんて全然なかった。


ミニが困った顔をするときは、全部俺のせいで、

ミニが嬉しそうに笑うのは、全部俺のおかげで、

ミニが辛くて泣いてしまう時は、全部、俺だけの…


 *******



「おお~!きゅひょなだぁ」


店に入るなり、キュヒョンの腰にヒョクチェが巻き付いてきた。
相当飲んだのか、白い頬はすっかり真っ赤になって、巻き付いてきた体はどっしりと重い。
キュヒョンは呆れたように笑いながらも、心の中で、ヒョクチェの頭を小突いてやった。


「ちょっと、ヒョクチェ。もう帰るんだってば」


キュヒョンの腰をがっしりと掴んでいる腕を、ソンミンが無理やり引き剥がす。
いつもの愛らしい目をキッと尖らせ、口調も、なんだか怒っているように聞こえる。
しかし、ヒョクチェはそんな様子に気づかず、自分の腕を掴んでいるソンミンの手を振り払って、
するりと腕をキュヒョンの首に回した。


「ん~…おれのきゅひょなぁ…」


ヒョクチェはすりすりと頬をキュヒョンの頬に押し付ける。
ほんのり甘いアルコールの匂いと、顔に触れるヒョクチェの綺麗な金髪がくすぐったくて、
キュヒョンは思わずクラクラする。
ぎゅうっと抱きしめられて密着した体が、少しだけ熱くなった気がした。


「ヒョクチェ!ほら、迷惑かけないの!!」

「えぇ~?いいじゃん、べつにぃ」


怒鳴るソンミンをかわして、ヒョクチェはキュヒョンの首元に顔を埋める。
いやいやと言うように顔を振りながら、ヒョクチェの腕の力はだんだん強くなっていく。


「もういい加減帰るんだってば!ヒョクチェ、ほら早く!」

「やだあ…きゅひょなといっしょがいい…」

「ヒョクチェ!!ホントに怒るからね!」

「いやだもん、ぜったい」

「ヒョクチェ!!!」


尖ったソンミンの声が、店内に響く。
周りはチラホラとこっちに視線を送る。
びっくりしたように目を見開いたヒョクチェは、脅えるようにキュヒョンの体にすり寄った。


「もう知らないから!!勝手にして!!!」


凄まじい音を立てて、店の扉が閉まる。
キュヒョンは背中に痛いほどの視線を感じ、ヒョクチェを隠すように、
背中に手を回す。
ヒョクチェは驚いたようにキュヒョンを見上げ、へらっと笑った。


「あ~あ…ひょんおこっちゃったねえ」

「ヒョクチェヒョン、怒っちゃったじゃないでしょう?」

「だっておもしろいんだもん。ひょんってばやきもちやいちゃってさぁ」


あひゃひゃ、とヒョクチェは楽しそうに笑う。
ツボに入ったかのように笑い出したと思えば、すぐにスイッチが切れたかのように、
キュヒョンに抱き着いたまま眠ってしまった。


キュヒョンは立ち尽くす。嬉しさで上がってしまう口角を抑えながら。




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